Wall Surrounded Journal

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11/24 「テロ」とは何のことだったのか 〜メディアと受動者〜

金曜日のことではあるが、野村證券の熊本支社を見学させていただいた。

●熊本支店 支店詳細
野村證券HP
http://www.nomura.co.jp/cgi-bin/service/branch_map.cgi/kumamoto/address


中は意外にも他の企業と大きな違いはない。
私が小中学生だったころの教科書にあった大きなボードとデジタル表示、大きな円卓を囲み、証券マンが何やらサインを送っている画はすでになく、各卓に1台ずつのパソコン、また、マーケット指標を延々とリアルタイムで映し出す大きな画面が部屋の印象を決定づけていた。

異様なものといえば、1つだけあった謎の鍵のかかった部屋。
今年の初めだったか、野村證券の中枢で働く中国人が起こしたインサイダー事件があったのはご記憶にあられるだろうか。
顧客のセンシティブな情報を取り扱う中枢でまんまと情報が悪用されてしまったわけだが、この部屋こそ熊本とは言え機微情報を蓄積したある意味1つの中枢であるとのことだった。
その部屋に立ち入ることの出来る者は限られ、さらに常に監視を受ける。その異様さこそが再び不祥事を起こさせないという意思表示であるのかもしれない。


そんな企業内部が抱える他では明かせないような会社から提供される情報もあるが、その社員が顧客と直に話をする上で必要な専門知識や時事理解といった情報は彼らが自助努力で得なければならない。
特に民間企業の中でも意識の高い彼らは朝5時のNYダウの指数を見ることから1日を始めている。
証券業務サポート部のSさんはこう語っていた。

日経新聞を全部読むこと―これは最低ラインです。」


「全部」…1度も読んだことがない。
かくして毎朝やるべきことを教えていただいたわけだが、何も彼らは新聞だけを毎朝読んでいるわけではない。インターネット上に無数の、新聞よりも速報性のある、無料の情報がある。もちろん彼らもこれを活用しているわけで、であれば日経新聞などを何故毎朝全部読まなければならないのだろうか。つまり言えばこの点が新聞が存在できる理由である。


多くの人も認識するように、新聞記事は一覧性に優れている。
インターネットのニュース記事では記事の羅列はあまり出来ない。特に、それは一般的に見出しだけで読む・読まないの判断がなされる。しかし、「新聞を全部読む」ことの利点はその判断をリードの部分まで読んで、もしくは最初の段落まで読んで…など即座にその記事を読むか否かの判断を行うことが出来る部分にある。
それに加えて、新聞社に関してはある一定の信頼が置かれている。インターネット上の情報にはソース(情報源)が信頼に足らないということも往々にある。何かすごい情報が書かれていても、文末に(IT media)や(オリコン)などと書かれてあったり、新聞社の運営するサイト以外での記事にソースがどこかが書いてないと情報の信頼度は一気に揺らいでしまう。その点、日刊で出されている新聞はある一定以上の信頼性を持っていると言える。


しかしながら当然ながら、新聞やテレビの報道番組のすべてを信頼するわけにはいかない。今週の日記でなぜメディアを取り上げるのかといえば、先週起きたことの中心にそれがあったからである。



自首というあっけない幕切れになりそうだ。

●「元次官宅襲撃「犬の敵討ち」…小泉容疑者が供述」
YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081123-OYT1T00625.htm?from=main1


最近よく思うのだが、各マスコミは1つの事実に異常なまでに固執する傾向がある。
コメンテーターは好き勝手に発言したかと思えば文末に「という可能性も否定できないんじゃないですかねぇ」…なんて。
テロとは政治を暴力などで脅かすことであって、今回マスコミがテロじゃないか?テロじゃないのか?って叫び続けたこと自体も、私はテロだと思うのですよ。もちろん今回の事件がテロでなかったと決まったわけではありませんが、事件が独りでに大きくされていくその過程もまた、1つのテロなんじゃないでしょうか。


●「元厚生次官宅・連続襲撃」 
毎日.jp「特集ワイド」
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20081120dde012040011000c.html

毎日.jpの事件特集記事、冒頭はこう述べてある。

「官僚トップを狙った連続テロなのか? 元厚生事務次官宅連続襲撃事件。嫌な予感がする。あの時代、戦争へと突き進んだ「テロの時代」と重なりはしないか。」

空気を語りだせば枚挙に暇がないだろう。
なぜ今回2人の元次官が殺されただけで「戦争へと突き進む」という文章が出てくるのだろうか。嫌な予感は心の奥で思っていればいいことであって、この記事はブログではないのである。また、速報記事ではなく「特集」で組んである以上、そこに慌てる必要性は全くなかった。そしてもう1つ。



●「毎日新聞「ウィキペディアで犯行示唆」と誤報、実際は事件後の記述」
INTERNET Watch
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/19/21592.html

これも性急すぎた。


"記事では、ウィキペディアの「社会保険庁長官」の項目で、歴代の社会保険庁長官の一覧表の部分に、「×は暗殺された人物を表す」という但し書きと人名の前に「×」を加える編集がされており、履歴によるとこの編集は中野区で発生した事件前の18日正午頃に行われたものだと報じていた。

 しかし、ウィキペディアは時刻は標準では協定世界時(UTC)で表示されるため、この編集は実際には事件報道後の18日午後9時頃に行われていた。"


ネット上での指摘を受け、毎日.jpでは該当記事を削除されたが、毎日新聞にはそのまま間違った記事が流れてしまった。その「誤報」があまりにもショッキングな内容だったため、翌日の各テレビ局の朝刊チェックにそのまま紹介されることにもつながった。だが、このミスはあまりにもお粗末なものだったと言える。


こうした新聞社の焦りであるとか思い込み、あるいは思想の押し付けには十分読む側は防備を重ねる必要があることはご承知のほどだ。簡単に入ってくる情報ほど、疑ってかかる必要がある。



そしてこちらの方はメディアについてものすごい発言をなさった。

●「「厚労省叩きは異常」とトヨタ奥田氏 報復でスポンサー降りる?」
MSN産経
http://sankei.jp.msn.com/life/welfare/081112/wlf0811122357005-n1.htm


>"トヨタ自動車奥田碩相談役は12日、首相官邸で開かれた政府の有識者会議「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」で、年金記録問題などで厚労省に対する批判的な報道が相次いでいることについて、「朝から晩まで厚労省を批判している。あれだけ厚労省がたたかれるのはちょっと異常。何か報復でもしてやろうか。例えばスポンサーにならないとかね」とメディアへの不満をあらわにした。"



いやはや、恐ろしい発言である。
要約してしまえば「トヨタ(のように各メディアのスポンサーとなっている企業)はマスコミの報道に対して口利きが出来る」ということである。「例えばスポンサーにならないとか」でマスコミがそのスポンサーが絡む事件を取り上げることができなくなれば、マスメディアはその存在意義を大きく失うことになる。大企業が報道の編集権を持つとしたら、私たちはスポンサーにぶら下がったメディアの言うことを信じることは出来なくなるのだ。


言ってはいけないことを言ってくれたわけだが、メディアの在り方を語る上で重要な発言でもある。たとえばA社にいっぱい広告を出してもらっている新聞社がA社によって、そのライバルのB社の製品に「毒物が入っている可能性」があるとする記事を載せるよう指示され、載せられないとスポンサーを降りると脅されるとしよう。あくまで「可能性がある」記事を出すだけで「完全な誤報」とは言えないとしよう。その新聞社にとってはそのスポンサーが撤退すれば来月の資金繰りがつかず、もう会社が潰れてしまうとしよう。それでも風評被害は起きてしまうが、新聞社にとってはその記事を載せざるを得なくなるかもしれない。ましてや、そのスポンサーが会社ではなく宗教団体であったり、暴力団やテロリストが運営するような企業であったら…考えすぎかもしれないが可能性はないわけではない。


自分で言いながらにして「可能性」を論じているが、これはブログのようなものであるから許してほしい。
だが、このことを述べた記事が新聞の1面やそれに準ずる場所で殆ど取り上げられなかったこと自体が、実際にいま述べたことが現在進行形の事象であるということの証明にならない気もしなくない。
あ、また「気」でモノを言ってしまった(笑)。まぁ、単なる日記です。戯言ですので。



とまぁ先週のメディアの動きに苦言を呈してみたが、こうして個人が発するブログのようなものであれメディアとなり得る。我々はそうした無数のメディアの中から情報を選りすぐり、取り入れる時代に生きている。無料のメディアには無料たる所以のスポンサーがついていたり、無料であるが故の質の低下も起こり得る。私たちがお金を払ってスポンサーのないニュースを買ったり、個人個人のサイトやブログを上手く活用する技術を身につけるのも、重要なのかもしれない。情報とは金であり、兵器であることを忘れてはいけない。




◆毎日書きたいけど週1で甘んじている私はこんなに最後まで読んで下さった皆さんから記事(日記)に関するご意見や取り上げて欲しいことをコメントまたはメール(Germanium.yuta@gmail.com)で募集しています。何でもどうぞ。いつも読んで下さってありがとうございます。