Wall Surrounded Journal

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来年度からベーシックインカムを導入する方法

自分界隈でベーカム(BI、後で説明)の議論が活発だ。

しかし、どれも理念の話なので議論は全く進んでいない。
進んだように見えても、それは「BIって理念的に素晴らしい可能性があるよね」という可能性を高めるだけのものでしかなかったりする。
つまり、20-30年後の人口構成変動を見越しての議論だということなのだろうか。


Wikipediaの「ベーシックインカム」があまりにもひどいので、まずは簡単にベーカムについて簡単に説明する。



ベーシックインカム(BI)とは?


・政府がすべての個人に対し最低限の所得保障を行う制度。
(基本的に国家が国民全員に5-8万配れという意見が多い。)
・現行存在するその他のセーフティネットは廃止および縮小される。
・それに応じて必要のない公務員を削減する。


つまり、必要な財源は年間72兆円以上が求められるワケだ。
財政的には大きな政府、権限的には小さな政府志向となる。
また、一時的なものにしては全く効果がないためにその財源は恒久的なものが求められる。


これが理念として素晴らしい点はいくつでも見つけられる。


・現行のセーフティネットで救われない人が一律に救われる。
・生活の基盤が保証される結果、個人がunpaid work(対価を求める必要のない仕事)に勤しむことが可能になる。
(「才能のムダ遣い」をよりよい社会構築に国家的に導入できる可能性がある)
・現行日本の潜在生産力が過剰である状況が指摘されているが、これを解消できる、つまり、需給の縮小均衡が実現できる可能性がある。
社会保障制度が大幅に簡素化されるため、その分の行政コストが削減される。



実際、こうした理念的な素晴らしさはどんどんと出てくる。
もちろん、考えられるデメリットもたくさん出てくるが、それは現行のセーフティネットでも生じているケースが多い。


さて、ここで間違いなく生じるのは財源の問題なのだが、藤沢数希氏や小飼弾氏が書いていらっしゃるように現状で恒久的な財源を獲得するのは難しい。

消費税率だって、増やせば増やすほど課税源泉たる総消費は減っていくわけで、現行の組み換えでは余裕ある財源確保は無理のようだ。
これはサステナビリティの欠如を意味する。その恒久性を国民が信用できなくなれば、BI制度は絵に描いた餅だ。
シニョレッジを恒久財源なんてトンデモはとりあえず話にならないし、一度疲弊するくらい相手にしたのでもう相手にもしたくない。



20-30年後を見越しての議論であるならば、初期としては現行でいいが、BIを早期に実現したい方もいるようだ。現行で導入するには上記の財源論もそうだが、以下の点の論点整理も必要である。

・誰が、いくら受け取れるのか。(受給要件、支給額)
・その他のセーフティネットをどうするのか。その削減を制度導入によりどう説得するのか。
・物価変動にはどう対応するのか。それが財源の維持不可能性を高めるのではないか。
などなど




・今年度中にもBIを実現する方法



このあたりで自分のポジションを明確にしておきますが、個人的には現状反対派には属しますが、理念としては基本的には賛成なのです。
ただ、現行案で国家として一律に支給までするにはどうやっても有権者が賛同するはずがないのは明確で、BIに賛成している人々のほとんどが「現行では実現しないけど、少なくとも理念としては賛成」という状況ではないでしょうか。


しかし、議論を見ていて思うのだが、一気に全員に支給するにはやはり怖い。
中途半端な制度設計では国は経済力を大きく失う可能性を持つわけで、そういう意味において、現行の議論では「いきなり全員に」というのは賛同できない。


よって、今からでも実現可能な制度を考えるならば、全員に導入する必要はないだろうと思うわけです。
具体的には以下の図を描いたのでご覧いただければと思います。


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※クリックで拡大します。



その方法とは、具体的にはBI共同体を許容することです。
BI共同体は現行の「家族」という共同体を大きくする枠組みとも言えるかもしれません。
現行の扶養控除や年金制度が、その共同体の中ではBI控除やBI所得に置き換わるのですから。


以下、簡単に仕組みを考えます。


・国家は複数の個人がBI共同体を設立する権利を保証する。

・個人は1つだけ、いずれかのBI共同体に属すことを選択でき、脱退・再加入も基本的には自由である。
(それを拒絶し、現行の社会制度の下に生きていく権利を何ら奪うものではない。)

・BI共同体に属する個人が得る所得はすべてBI共同体のサイフに入る。共同体(法人格を有することになるでしょう)には申告義務がある。

・BI共同体は共同体内の個人に対しBI所得(損金算入可能)を支払う。
共同体内の個人は一律に確定申告が必要で、受け取ったBI所得に関しては非課税。

・ただ、共同体内にはBI所得以上に稼ぐ人もいるので、そういう個人に対しては共同体が分配金を支払うことが、その共同体の判断として合理的になるでしょう。それは共同体が定める分配ポリシー等を定款に定めることを条件に分配金を付与する権利を与えるべきです。

分配金については支払ったBI共同体からは共同体の所得から控除することを可能にして、受け取った個人は申告に応じて課税されることとなります。(その際には現行の基礎控除や給与所得控除などは考慮されません。)

したがって、共同体内の個人の所得の源泉はBIと分配金の2種類しかないわけですから、基本的に申告は簡素化されます。共同体内で個人で営業活動を行っても、所得は一旦共同体に属すことになり、その後に成果に応じた分配を受けることになるでしょう。

・あるBI共同体が共同で何らかの財やサービスの生産活動を行い、外部の市場から対価を得ることもあるでしょう。また、そうした活動に賛意が得られれば寄付だって行われるでしょう。それらも一旦、共同体の所得に属させます。定款に定めた内容次第ではそれらも個人に分配だって行われるでしょう。



ドトールでメモ帳上で考えただけなのでざっとしていますが、こんな感じです。
これが運営可能なコミュニティであるならば、BI共同体は大きくなっていくでしょう。
地公体が新たなセーフティネットとして独自に設立することだって(論理的には)可能でしょう。


ただ、この仕組みがBIの素晴らしい理念を部分的に失う可能性があることについては認めざるを得ません。
しかしながら、それはBI共同体が複数に成立すること、それぞれ個人が基本的に加入・脱退に関して自由に選べることを考慮すると、より制度構築に優れた共同体が残っていくことになるのではと思います。その極限値が現実の範囲内における理想のBI制度ということになるのでしょう。


個人的には、それが国を丸め込むくらいのものが実現するならば、日本が一律に採用できるBI制度は(一時的かもしれませんが)完成出来るのだと思います。


twitterをやっている人々の中には、こうした世界観を考えたことがある方も少なくないのではないかな、と思います。
財源論としては、現行の基本的な控除(103万円、子どもの場合は子ども手当や扶養控除等)がBI部分(年間約100万円)に置き換わる程度のものなので、実現可能と考えます。



とまぁ、ない頭を無駄遣いにならない程度にしぼってみましたが、いかがでしょうか。
BIを早期に導入したい、という方々は、今以上にモデルケース創出を議論してみた方がいいのではないでしょうか。