Wall Surrounded Journal

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時代が変われば失業者心理も変わる?

前回の金融危機を受けて改訂が行われそうではあるが、「マンキュー マクロ経済学 第2版〈1〉入門篇」の「失業」という項には1つのケーススタディとして以下の記載がある。

失業保険と就職率

 失業保険が職探しに与える影響を検討した研究は多い。そのなかでも、個別失業者の経験に関するデータを用いた研究のほうが、経済全体の失業率のデータを使うよりも信頼性が高い。個人データは解釈の余地が少ないので、はっきりとした結果が得られることが多いからである。
ある研究では、失業保険給付の残存期間が短くなると、それに応じて個別労働者がどのような行動をとるかが調べられた。そこでは、失業保険の給付期間が終了すると、失業者の就職率が高まることが発見された。とくに、失業保険の給付期間が切れる時点で、就職率は2倍以上に上昇する。
一つの可能な解釈は、給付が打ち切られると、失業者は職探しの努力を増やすというものである。もうひとつの解釈は、給付があるときには低賃金や悪労働条件などの理由で断った仕事でも、給付が切れてしまうと受け入れるようになるというものである。*1

 経済的なインセンティブが職探しにどのような影響を与えるかについて、もう一つの証拠は、イリノイ州が1985年に実施した実験から得られた。失業保険の新規受給者からランダムに選ばれた人々に対して、11週間以内に就職すれば500ドル与えると通告したのである。
これにより、選ばれた人々の求職行動と、特別なインセンティブを与えられなかった一般の失業者の求職行動を比較することができる。500ドルのボーナスを提案されたグループの平均失業期間は17.0週であり、比較対象の一般グループは18.3週であった。
このボーナスは平均失業期間を7%短縮したことになり、職探しの努力が高められたことを示唆している。この実験からも、失業保険制度のもつ経済的インセンティブが就職率に影響を与えることが明確に支持された。*2


どちらの論文も古い参照データとなっていることを考慮すると、いまや失業率が9.6%と、いずれの時期よりも(いずれもリセッション後とはいえ)高い現状の米国ではどのようになっているかは気になるところである。
そんな中、WSJブログが興味深い記事を和訳してくれている。



【ブログ】失業が長引くほど就職活動は減り、最低賃金に固執する
Real Time Economics/The Wall Street Journal日本版
2010年 11月 12日 11:00 JST
http://jp.wsj.com/US/Economy/node_147477

 失業状態が長引くにつれ、さらに積極的に職を探したり、希望最低賃金を引き下げるようになるものかと思いきや、実際は違うようだ。失業者の大半は時間がたつにつれ、むしろ職探しに費やす時間が著しく減り、就職する価値があるとみなす最低水準にできるだけ近い給与に固執する、と米プリンストン大学で労働経済学を教えるアラン・クルーガー教授は話す。

(中略)

 大半の経済モデルは、失業状態が長引けば長引くほど、失業給付金を使い果たしてしまう心配があるため、就職活動に費やす時間は安定または増加するとしている。だが、両教授による研究結果はその反対を示していた。
 後半の12週間に就職活動に費やされた時間は、最初の12週間の約3分の1に減っていた。この結果について両教授は、求職期間が長引くにつれ自分に適した職の求人が減っていくか、あるいは単純にやる気をなくしてしまうためではないかとしている。
 このほか、失業者の大半は、たとえ失業状態が長引いても、受容可能とみなす最低賃金に一層固執する傾向があることも明らかになった。
(後略)


実際に、US雇用統計でも労働力人口(Civilian Labor Force)も労働参加率も共に下がってきており、失業率は横ばいでも労働市場への参加意欲の低下が顕著に現れている(=失業は増える)という状況が垣間見える。*3

一方、直近でも強めのISM(製造業)の指標に比べて当該業種の雇用の弱さが続くということであれば、上記の「最低賃金への固執」も検討する必要があるかもしれない。
この点、前述のWSJブログでは「若年労働者は、残りの就労期間が長いため、賃金が低ければ損失が大きくなる」と総括している。
確かに”いま”若年労働者が”給料が期待より安い”と感じるポジションを獲得する価値は、人生の残存期間が長いほど小さい。


そして、日本を見てみると、失業率は横ばいとはいえ、10月1日時点の新卒内定率は57.6%と過去最低である。
その構造的な問題は、現状を変えられる可能性を絶望的レベルに感じられるほど諸先輩方が議論を重ねられているので、ここでは述べない。

だが、それらを除いたときに、先程のクルーガー教授らの調査による彼らの感想は、その「過去最低の日本の新卒内定率」とやらの構成要因を知るのに、部分的なヒントを与えてくれるような気もする。

マンキュー マクロ経済学 第2版〈1〉入門篇

マンキュー マクロ経済学 第2版〈1〉入門篇

*1:Lawrence F. Katz and Bruce D. Meyer [http://humancapital.cufe.edu.cn/upload/20091011/6337408.pdf:title=“Unemployment Insurance, Recall Expectations, and Unemployment Outcomes“] Source: The Quarterly Journal of Economics, Vol. 105, No. 4, pp. 973-1002

*2:Stephen A. Woodbury and Robert G. Spiegelman [http://econrsss.anu.edu.au/Staff/gregory/pdf/Woodbury.pdf:title=“Bonuses to Workers and Employers to Reduce Unemployment: Randomized Trials in Illinois”] Source: The American Economic Review, Vol. 77, No. 4, pp. 513-530

*3:[http://marketwatcher.blog61.fc2.com/blog-entry-314.html:title=10月雇用統計ポイント] 金融市場Watch Weblog