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キャッシュフローマトリクスで企業のCFを眺める

山口揚平(@yamaguchiyohei)さんの「企業分析力養成講座」が読みやすくて一気に読み進めてしまった。
これは2008年10月に出たもので、読み終わってみると、この読みやすさはその時期に出たという面も寄与しているのかなとも思った。

本書では会社の本質を見抜くための「分析の視点」としてまずP/Lを中心に置き、その周辺の8要素を並べた9つの領域で表して取り上げていく。
その後、それぞれについて1:1対応で実際の企業データを元に解説していく。
各ケーススタディ毎に章が区切られていてちょっとした合間に読みやすいので、忙しい方にもオススメ出来そうだ。

デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座

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さて、この本では各ケーススタディの後に1つずつコラムが挿入されている。
それらの9コラムの中でも特に「キャッシュフロー 〜おカネの流れでわかる企業の健康状態」が面白かったのでこれだけご紹介する。

その前に念のためキャッシュフロー*1について本書より引用しておくと、

キャッシュフローは、「営業」「投資」「財務」の3つに分けて記述される。営業キャッシュフローは、「実際に稼いだお金」でどちらかというと利益に近い。投資キャッシュフローは、「将来のために投資したお金」で、通常はマイナスとなる。財務キャッシュフローは、「スポンサー(株主・銀行)とのお金のやりとり(調達や還元)」を表す。


会社が資金を調達し、それを投資し、そこから稼ぎを得て、それを還元するというサイクルを想起するとイメージしやすい。

山口氏はこの3つのキャッシュフローのうち、事業の展望を見るためには営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足した「フリーキャッシュロー(FCF)」を見ると良いだろうと述べる。そのとき、財務キャッシュフローはその2つの調整弁となる。企業は資金不足なら調達(借入や増資)を行うし、手元に余れば還元(返済や配当)を考えるだろう。


さて、その営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの関係から企業動向を分かりやすく可視化する方法として紹介されていたのがキャッシュフローマトリクスであった。以下にざっと作図したものを示す。


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キャッシュフローマトリクスでは横軸に営業キャッシュフロー、縦軸に投資キャッシュフローがとられている。
投資キャッシュフローは将来のキャッシュを生み出すための先行投資であって、成長期にはお金が出て行く→基本的にマイナスになっている項目。投資の結果、キャッシュが稼げてくるようになると、営業キャッシュフローとしてリターンが生み出される*2という流れ。

営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合計がプラス(つまり、FCFがプラス)ならば手元におカネが増えたことになる。
普通の会社は投資キャッシュフローがマイナスで、営業キャッシュフローはプラスなので、上図でいう右下の領域に入る。

ここでコンパクトにまとまっているブルーマーリンパートナーズのサイトでのキャッシュフローマトリクスの説明を引用する。

稼ぎよりも投資の方が多い場合には「投資期」に入ります。
稼ぎのほうが投資よりも大きければ「安定期」 に入ります。

やがて会社が投資をしなくなり、
それまでに投資してきたものを売却するようになると
投資キャッシュフローはプラスに転じます。
 
これが「停滞期」です。
投資をしないと当然、稼ぎも減ってきます。
新商品を開発しなければ企業は生きていけないからです。
 
営業キャッシュフローがマイナスになると「後退期」へと進みます。


なので、キャッシュフローマトリクスのイメージとしては、ちょうど第4象限の投資期に始まり第3象限の破綻期に終わるような流れで作られている。
冒頭で紹介した書籍ではこのコラムの中で実際に2003-2007*3のトヨタ、キヤノン、アスクル、マイクロソフト、グーグルのデータをプロットして各社の動きや現状をカテゴライズしているので、ここを眺めるだけでも面白いと思う。
ちなみに、Business Media 誠でも実例込みで本人が紹介している。*4

利益は出ていても実際にキャッシュフローを稼げていない会社は案外多いものである。そのような会社は粉飾をしているか、会計処理が甘い可能性もある。そうなると、今は利益が出ていても、将来、特別損失という形で一気に会計上の損失を計上する危険性があるので要注意である。そのようなことにならないようキャッシュフローをじっくり見るべきだ。

山口氏はコラムをそう締めているが、今回は改めてその重要なキャッシュフロ−について勉強になった。

*1:今更かよというコメントは出来れば自重してください

*2:つまり、営業キャッシュフローがプラスになる

*3:時期がいいよね。

*4:本書もここでの執筆が一部を構成している。