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Wall Surrounded Journal

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2000年代における「所得格差の抑制」とは何であったか

最近はメディアをはじめ、以前ほどは個々人の所得上の「格差」を表現しなくなってきたように思う。
若い世代においては特に、その頻度が減ってきた分、どちらかといえば「貧困」という単語を使うことが増えたのではないだろうか。

たとえば共産党中央委員会やしんぶん赤旗ホームページの"www.jcp.or.jp"ドメインでGoogle検索*1をかけると、「格差」では約3,130件、「貧困」は約2,860件ヒットするが、直近1年間に期間を区切ると、前者は286件、後者は386件と優劣が逆転する。

期間を問わず、「貧困」は必ずしも日本を取り上げた記事が上がるわけではないが、「格差」は最近では所得格差というよりは「1票の格差」でヒットすることが多くなっている。
このあたりはひょっとしたら冒頭の文章を幾分は示唆してくれるのかもしれない。*2

さて、その赤旗では2010年9月3日に「所得格差が過去最悪 厚労省調査 90年代後半から急拡大」という記事があがっているが、これはタイトルが非常に恣意的である。
「最大になったのは税金と社会保障による再分配を行う前の当初所得の格差」と本文中で指摘しながらも、タイトルでは単に"所得格差"の急拡大を謳っているのだ。

最大になったのは税金が引かれる前、かつ、年金や生活保護の受け取りなどの再分配が行われる以前の「当初所得」であり、むしろ自民党政権下で再分配後の格差は一定程度抑えられてきたといえる。
同記事にある世帯所得のジニ係数*3の推移にそれをみることができる。

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小泉政権下でブームのように語られた「格差社会」だが、当時のみならず今に至るまで、当初所得のジニ係数が拡大した理由の大部分が日本の高齢化で説明できる点は当時から語られてきた。*4

高齢者の”年金を受け取る前”の所得格差が、その他の働く世代と比べて大きいのは当然の話である。高齢世帯で最も割合が多い当初所得階層は当初所得が0万円に近い人々だからだ。
そもそも年金を満額もらっている場合、当初所得は0万円である。

さて、ここで気になるのはこの「再分配後のジニ係数が抑えられてきた」という事実が何を示すかである。

「再分配で格差が縮小した」ということは単純に言い換えれば、高所得者から低所得者への所得移転が起こったということであるが、たとえばこれを年齢階層別にみると、その背景がより鮮明にみえてくる。

先程の記事では、再分配機能の改善(当初所得)について文中で「年金受給者の増加が最大の要因とみられます。」と述べている。
これはおそらくその通りで、90年代以降、税によるジニ係数の改善度は下がる一方、社会保障によるジニ係数の改善度は急激に大きくなっている。

しかし重要なのは、現行の年金制度は「自分が払った分を将来受け取る」という性質のものではないということだ。そうでないのなら、そもそも年金問題など存在しない。
そうなると、「年金による再分配」という単語は自然に意味を持つ。
それはすなわち、「労働世代から高齢世帯への所得移転」に他ならない。

現行の「再分配」とは勤労世帯から高齢世帯の所得移転

小塩隆士氏は「再分配政策の効果と限界」にて前述の内容を数値やグラフで表現、指摘している。

再分配の厚生分析  公平と効率を問う

再分配の厚生分析 公平と効率を問う


同様の記述が本書にもあるが、今回は平成21年度「所得・資産・消費と社会保険料・税の関係に着目した社会保障の給付と負担の在り方に関する研究」内の同氏の記述を参照した。

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上図では「再分配」が「労働世代から高齢世帯への所得移転」であることを視覚的に確認できる。

左部分の平均所得とジニ係数を見れば再分配による格差の是正とは、ある意味、再分配によって当初所得の世代間格差を是正したものであり、それは右上の貧困ギャップ率*5を見ればさらに露骨に把握できる。

高齢世帯で圧倒的に高い再分配前の貧困ギャップ率よりも、再分配後の貧困ギャップ率は20歳代以上に低くなっている。*6

年齢階層ごとの純負担分布でも同様だ。

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これで大まかにも確認できるが、高齢層では彼らの世代の内部で一定の再分配を実現しているのに対し、若年層および中年層では全ての所得階層で税・社会保障負担よりも受け取る給付の方が少ない(=年齢階層内の格差是正効果が乏しいor実現しているとしてもそれは高所得者への負担の重み付けで均されている)。

なお、小塩氏は朝日新聞の特集「若者、投票に行かないと損する? 識者に聴いてみた」でも一世帯あたりの生涯純受益のグラフを示しながらこれらの点を指摘している。

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しかしこれらだけで「不公平」を訴えるのには少し慎重でありたい

そうはいっても、これらを以って一概に不公平という前には少しだけ考えたい。
よく我々は、学校の授業や政府広報などで具体的に「将来は現役世代1.3人でお年寄り1人を支える」みたいなことを言うわけで、日本の社会保障の根幹は「お年寄りを支える」ことにあるかもしれないわけだ。*7

であるならば、ここで述べてきたことは、我々が決めた"当たり前のこと"と言っても差し支えないのかもしれない。
つまり、日本全体を家族と考えると、あながちおかしなことだとは言い難いということにもなる。

ただ、だとするならば、同じ家族として同時に見るべきものはやっぱりあるだろうということになり、この辺はまた次回以降に話を拡張していきたいところ。

*1:2011年5月13日時点

*2:実際にここ10年で日本に起きたのも格差の拡大というよりは総貧困化である。

*3:ジニ係数は不平等の度合いを数値で表したもの。全員の所得が同じなら0。格差が大きいほど1に近づいていく。

*4:もっとも、当時はジニ係数の拡大という事実のみが煽られた感は少なくない

*5: http://ipperoad.blog94.fc2.com/blog-entry-220.html

*6:ただ、そもそもの可処分所得分布が異なるので、その大小比較の意味はあまりない。ここは単純に水準の確認に留める。

*7:もちろん有権者の意見云々はそうだけれども。