Wall Surrounded Journal

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将来の日本を探るなら「田舎のアラフォー」に注目せよ

先日、とある会で以下の資料を広げてあれこれと好き勝手会話していたのだが、バランスの取れたレポートという評価で参加者が一致したために掲げておく。ちなみにレポートのリリースは2011年10月7日である。

J-INSIGHT 日本は経常赤字に転じるか? - Morgan Stanley MUFG
http://www.morganstanleymufg.com/economicforum/jaew/docs/jaew_111007.pdf

タイトルはいまなお議論が繰り返されるポイントであり、レポートの論点は豊富なのだが、個人的には本筋からは少し離れて、この資料中のとあるグラフに注目してしまった。なので、今回は下のグラフをネタに書いてみることにした。

上記のグラフを端的に表現するならば、「年金もらってるヤツらは意外にカネ貯めている」。
「意外に」と述べたのは、これがトレンドであるならば、この点は多くの識者らが当然のように語ってきたことが、ある意味では裏切られているということを示すからである。

 

長期的に見れば、さらなる高齢化の進展により家計貯蓄率が低下していくことは避けられない。団塊の世代の先頭が65歳を迎えて「高齢者」となる2012年以降、高齢化が加速することにより貯蓄率は再び急低下していき、日本経済はいずれ家計からの潤沢な資金供給を期待できなくなると考えられる。
(櫨浩一 『貯蓄率ゼロ経済』 日本経済新聞出版社 p.115 より)

 

公的年金をフルで受給する前の60-64歳のレベルでは確かに、退職一時金を受け取った後の貯蓄率がマイナス域に突入するという状況ではあるのだが、フル受給世代の65歳以上では意外にもダウントレンドにあるとは(この資料からは)指摘しにくい。
これは何を意味するのだろうか。

この資料が示唆するのは「日本株式会社」のキャッシュ・フローの頑健性だ。
つまり国全体で見ると、現在は政府が浪費し、その分を家計が貯め、企業も貯めて(貯めてどうする)というバランスのもとにあるわけだが、先ほどの「日本経済はいずれ家計からの潤沢な資金供給を期待できなくなると考えられる。」という文章の「いずれ」が想定する将来が、少しずつ遠ざかっている可能性がある。


資金循環の日米欧比較(2012年3月23日) - 日本銀行調査統計局 より)


これをもう少しだけ、ローカルに眺めてみたい。
平成17〜22年の間に人口が減少した都道府県の数は38道府県であるが、中でもワーストは秋田県であった。
以下は秋田県の人口と秋田銀行の総預金量の推移である。(下のグラフは前年比変化率)

長崎県についても同様のものを眺めてみよう。

高齢化が進み、実際に5年以上も人口減少トレンドにある県とはいえ、消費者のマインドも反映してか、当地の銀行への預金は減るどころか、むしろ順調に集まっている。

 

ここまでを総括すると、現在の日本は高齢世帯の年金受け取りに、現役世代からの仕送り、さらに高齢者自身も以前より労働によって稼ぐようになり、表面上は高齢世帯の貯蓄率までプラスとなっている。
また、利子率が低いのにもかかわらず、預金量は(人口動態に関係なく)増える状況が継続し、投資意欲が(主体を問わず)涌く環境下にないことが、皮肉にも「日本株式会社」のキャッシュ・フローの頑健性を高めている。

 

さて、それではここで上で眺めた「ローカル」の先を少し考えてみよう。

団塊世代をメインにシナリオを立てると、以下を想定できそうだ。
(1)団塊世代の年金フル受給〔当該地域の貯蓄率プラス要因〕→(2)団塊世代の老衰〔当該地域の貯蓄率マイナス要因〕→(3)相続〔当該地域の貯蓄率プラス要因〕

 

その後(あるいはその過程中)は〔各地の高齢世代増加>生産年齢人口増加〕のトレンドにしたがって当該地域の貯蓄率は減っていくということになろうが、(3)の相続については1つのスパイラルを想起させる。

団塊世代の相続先となる団塊ジュニアは現在アラフォーと呼ばれる40歳前後。
彼らが親元をさほど離れないのであれば、その相続は減少する地域の貯蓄率を引き戻してくれるが、彼らが県外に流出するようであるならば、進む「マネーの高齢化」に抗う力とはならない。

したがって、地域経済が老衰し、アラフォー世代を惹きつける魅力がない人口減少地域は、その地域のキャッシュ・フローを一時的に支えるであろう将来の(3)によるマネーのUターン機能までをも失うことになる。

 

こうして経済のみならず政治も老衰し、人口の社会減をも容認するような地域の衰弱スピードは加速しやすいと考えられる。

預金量の縮小とは同時に貸金量、地域経済の収縮でもあり、国債消化余力の減衰である。

日本国の将来の財政余地を探るにあたって、「田舎のアラフォー」動向は今後、より多くのヒントをくれるのではないだろうか。*1

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*1:短期的に問われることになるのは、円滑化法の出口戦略