「中国の経済統計は何を信じればいいの?」と聞かれたら
下に2つの国の経済統計を並べるので、ちょっと見てほしい。
A国
・GDP成長率は9.6%から8.7%に低下
・インフレ調整済みの消費支出はここ2年間、毎年16%を超える伸びを示している
・失業率はとても低い水準で安定している
B国
・ここ数ヶ月だけで少なくとも2,000万人が失業
・GDPの13%におよぶ景気刺激策が採られている
・日本に匹敵するデフレに陥っている
これはヘリテージ財団・Derek Scissors氏の「China’s Economy: Something Is Not Right in Beijing」における書き出しである。
ちなみに、上記2つの国の統計はいずれも2009年、同時期の中国のものである。
「これだから中国の統計はアテにならないんだ。」
だからといって、そういう態度をとるのはちょっと早すぎる。
中国は確かに矛盾した統計を出してくるが、何の参考にもならないのなら、わざわざ出す意義もないし、報道する価値もない。
それでも政策立案者やエコノミストは統計を見る必要がある。
誤った統計に基づいて、誤った政策を行ってしまえば経済は混乱しかねないからだ。
では、彼らは何を参考にしているのだろうか。
中国の経済統計で信頼に値するものは
先日、以下のレポートをもとに定期的に開いている勉強会を行ったわけだが、これまた非常に面白い会となった。
「中国経済の構造問題を反映する人民銀行の金融政策」 - 大和総研/金森 俊樹
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/overseas/china/12040901china.pdf
この資料についてメンションしておくと、後半はおそらく書いてる本人(?)もよく分からず書いているのだろうが、前半はよくまとまっており、とても参考になった。
そして、この会の最中で出た質問の1つが、このエントリのタイトルである。
そこで中心的に話していただいた方の、この質問に対する答えがシンプルかつ明快だったのでここに紹介したい。
その答えは、
「地方政府を通ってきていないもの」*1
というものであった。
非常に簡明な答えである。
たとえば、毎月の「電気使用量」はそれに当てはまる。
1〜2月のものは春節の影響を考慮しなければならないが、8%程度の成長率が「必要だ」と時折言われる中国経済において、これがその水準を下回るようであるなら、不安感は募る。
金融機関による貸出の推移もそうだ。
総量が増えていたり、あるいは量が不変でも、長期の貸出が減って、その分短期が増えてたりすれば、これらは当局側の姿勢を見極める重要な指標である。
個人的に面白い話だったが、この説明が包含する問題は我々が普段、自分が勤める会社の内部で接する計数についても同じような考え方でアプローチできる問題であるのかもしれない。
ある特定箇所を通ってくる計数/統計数値が特に不適切であるのならば、その部門は何らかの構造問題を抱えている可能性があるのではなかろうか。
こう思うと、「中国の統計はアテにならない」で思考を終えるのではなく、他山の石としたいものだなというのが、本稿のオチ探しの際に考えたものであった。
■本稿は別で運用しているサイト向けに書いたものです。
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*1:なお、その理由については、直近でフジサンケイビジネスアイのこの記事がうまく表現していたように思う。水増しは当たり前…中国統計の信頼獲得、なお道遠し+(1/2ページ) - MSN産経ニュース