Wall Surrounded Journal

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東日本大震災とパチンコ業界:「空気を読むのがこの業界が一番やらないかんことや」

今回はタイトルの通り、東日本大震災後のパチンコ業界の片隅をネタに取り上げてみる。
ネタがネタだけに、パチンコ業界に対して並々ならぬ嫌悪感をお持ちの方はお読みいただかない方がよいだろう。
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今年8月6日、パチンコホール(店舗)大手の「ダイナム」が香港証券取引所に上場した。
各経済誌はこれを「悲願の上場」と称したが、同社財務担当執行役の米畑博文氏によれば、上場の目的は資金調達というよりは「社会的なステータスの向上」だという。


ダイナム香港上場記者会見 質疑応答|株式会社ビジョンサーチ社
http://www.vsearch.co.jp/entry/news03/post-17322.php


Q: 株式上場による資金調達以外のメリットはなにか?
A: 正直なところ、資金調達がメインではありません。1989年に大卒採用を開始して以来、親や親戚などに業界への反対者が多く、業界の社会的なステータスを得ることが目的のひとつです。


また、時事通信によれば同社の佐藤社長も「毎年200〜300人の大卒を採用するが、本人よりも家族が反対する。社会的ステータスを得て、次のビジネス拡大を狙っていきたいというのが、上場の一番の強い思いだ」と述べている。


では、そのパチンコ業界の「社会的なステータス」とはどの程度のものなのだろうか。
今回紹介する以下の動画では、その片鱗がうかがえて面白い。

競馬や競艇と同じように、パチンコ・パチスロ業界にも専門の雑誌がある。
この動画の登場人物は「ライター」としてそのパチンコ雑誌業界で働いてきた2人である。

「パチンコ・パチスロライター」は、雑誌の上で執筆するだけでなく、ときには地方の民放や有料放送、インターネット上の番組などにも出演するそうで、彼らの一部はパチンコ店に足を踏み入れるお客さんやホール経営者にも知られた存在となるそうだ。

そんな彼らは他の芸能人と同じように、パチンコ店を盛り上げるための「イベント」に呼ばれ、営業活動を行なっている。
以下に動画から書き起こした部分は、そんな東日本大震災直後の業界の、「イベント」を含めた自粛ムードについて2人が熱く議論する場面である。


 大崎:「あのですね、ボク1個だけものすごく頭に来たことがあったわけ。それは去年の震災直後、地震のあとに世の中いろいろ一変して、まあパチンコ店は特に不要不急の産業であります。なもんでなんかこう、パチンコ店全体がですよ、ちょっと世の中空気を読んでおとなしくしとかなきゃいけないんじゃないのっていうタイミングがあった。」

ウシオ:「うん、ありましたね。」

 大崎:「しばらくね。そこんとこでキミ、イベント(*)やったやろ?」
(*イベント:パチンコ店が通常営業の日と比べて、客側が有利となるように機械を設定する日、あるいは、そのように演出する日。)

ウシオ:「はい。」

 大崎:「あんときにね、ボクんとこに苦情が来たわけ。たくさん。やってんで!みたいな。」

ウシオ:「なんで大崎さんのとこに行くんですか?」

 大崎:「知らんわ!ボクに言われてもそら分かりません。」

ウシオ:「ボクのこと多分イジってるからでしょ?」

 大崎:「いやいや、そういうことじゃなくって」

ウシオ:「他の人からそんなこと言われたことないですよ。」

 大崎:「それでね、ボク(ウシオの)ブログかなんかを拝見したんですよ。いや、(イベントを)やってるやんって。いやいやいや、これね、業界、そのお店さんとか職業だけやなくてね、業界全体にこれものすごい風当たり強なるんちゃうのってね。」
「なんかもうとにかく空気を抑えよう抑えようと。じっと今しとこうというときにやって、それ迷惑めっちゃかかるやんけと。」

ウシオ:「うん。」

 大崎:「え、どういうつもり?ってなったわけ。」

ウシオ:「はい。」

 大崎:「それなんでなん?」

ウシオ:「それ答えましょうか?」

 大崎:「うん。」

ウシオ:「ボクはそこには日常があると思ったからです。」

 大崎:「いやいやいや、日常があるってパチンコ屋さんの中に?」

ウシオ:「はい。その地域に日常があると思ったからです。楽しみにしてるお客さんがいる。それを、イベントをぜひやりたいって言ってくれるホールさんがいる。」

 大崎:「いやいや、それをやることで、そのホールさんやそこに来てるお客さんはいいですよ。周りの一般社会からどう見られるかということを、パチンコ産業って常に考えていかなきゃいけない職種、商業っていう…」

ウシオ:「一般社会規模で考えるのであればですよ、じゃあ、そこで働いている人たち…」

 大崎:「分かるよ。」

ウシオ:「会社のため、家族のために働いてる人たちいますよね。」

 大崎:「いるいる。」

ウシオ:「なんでその人たちが、自分たちの社会活動を制限されなきゃいけないんですか?」

 大崎:「いやいや、店閉めようって言うてないわ。そこの日に、いやイベントってすなわち、射幸心を煽ることやないですか。」

ウシオ:「そうですよ。」

 大崎:「球が出ますよ、今日はいいですよ。」

ウシオ:「まあそういうことになりますねえ。」

 大崎:「それをですよ。そのタイミングでやる意味。店閉めようて言うてるわけや全然ない。なんでわざわざ周りを刺激するようなことしよるのって。」

ウシオ:「ボクはそのへんの価値観合わないんですけど、」

 大崎:「まあそうなるわね。」

ウシオ:「だったらね、社会活動を継続されてる方、ていうか社会活動を継続してる企業なりにそのしわ寄せが行くっていうのがボクそもそも、なんでボクそういう方向に話が行くのか理解できないんですよ。」

(中略)

 大崎:「ボクもパチンコは好きやし、打ちたいわ、日常が欲しいわ。そこで。ただそこで煽ってお客さんを集めるっていう行為、いやいやもうちょいそういうことじゃないこと考えなきゃいけないんじゃないって…」

ウシオ:「いや、分かりますよ?もちろん正論だと思いますよ。ただ、じゃあそれって、いつなのって話にもなるし、もっと言うと今だって、」

 大崎:「だから、分かるって。そこを空気を読むのがこのパチンコ業界が一番やらないかんことやっちゅうねん。」

ウシオ:「うん、分かりますよ。」

 大崎:「だから、あのタイミングでボクはね、だからキミと多分考え方まるで違うんだけど、ボクはGW明けるまで、すべてのイベントをやめたんです。で、実際そこでやめたおかげで、お前なんやと。取引止めるっていうて店から切られたりもした。」

ウシオ:「はい。」

 大崎:「でも、それでもやるべきやないと思ったの。」

ウシオ:「それはでも社会観の話なんで、多分ね、そこは多分噛み合わないですよ。」


この会話では同じ業界で同じような仕事を行う2人の人間が、異なる価値観を表明している。
その中心テーマはいまなおソーシャルゲーム界隈でも取り沙汰される「射幸心」である。

この会話における「射幸心」とは、パチンコ店(ホール)が知名度のあるライターをお店に呼んでイベントを行うことを指している。
「今日は普段と違うんですよ」、これが「射幸心を煽る」行為というわけだ。

ちなみに、上に引用したトークでは大崎がいわば「業界の大先輩」にあたり、キャリア的にはウシオがだいぶ短いらしい。



この会話の中で、大崎はパチンコ業界がまさに社会の「空気」の中で生きていることを、自身の経験から、重く評価している。

ここで、震災直後の社会の「空気」を思い起こす必要があろう。
大崎が述べたように、パチンコ業界とは「不要不急」の産業であり、震災直後も被災地ではパチンコ店が活況であったといえども、「一般社会的には」存在意義を感じられないという人が多いばかりか、有害だとみなす人も相当数いる。

そして、福島第一原発事故に端を発する、夏に向けての電力不足への懸念。
石原都知事のこうした発言も反響を呼んだ。


「自販機、パチンコやめちまえ」 石原都知事の発言が大反響 : J-CASTニュース

「パチンコはジャラジャラと音を立てるために電気を煌々とつけるのは、世界中で日本だけだ」


これはもちろん、当時の心情として「一般社会」にも理解されたものと見てよいだろう。
確かに震災当時、「天譴論」に走りすぎていた石原都知事ではあるが、この主張はおおかた都内の民意を反映していたとみていいのではないかと思われる。
こうした指摘(あるいは、一定の民意)を受けて業界としても、昨年出された電力使用制限令の節電基準(15%節電)を上回る25%節電を打ち出した(東電管内)。


こんな一般社会の空気感の中で、「射幸心を煽る」イベントを行うのはどうなのか、それによって一般社会の批判(場合によっては、非難)まで煽ってしまったら取り返しがつかないのではないか。
こうした危機感から、大崎は震災直後にイベント仕事を引き受けたウシオに腹を立てていたのだ。


これに対するウシオの反論は「一般社会規模で考えるのであれば、パチンコ業界で会社のため、家族のために働いてる人たちが、なぜ自分たちの社会活動を制限されなきゃいけないのか」というものだった。

震災直後の自粛ムードが拡がる中、パチンコ店内でイベントを盛り上げている画というのは一般人にとって強烈な違和感をもつものだろう。
これに対して、彼は「なぜパチンコ業界にしわ寄せが来るのか」という、おそらく業界”内”としてはストレートな意見で反論したという格好だ。

対する大崎は「店を閉めろということでない」のであって、(射幸心を煽る)イベントは、そういう空気の中では自粛すべきなのではないかという意見を持っていた。
結局、この議論ではどちらが正しいといった判断は下されず、意見の対立は「2人の価値観の相違」ということに落ち着くのだが、この対立が震災後の業界内外の「空気」をかすかに感じさせてくれているようで、とても面白く見させていただいた。


再びダイナムに話を戻そう。
ダイナム社長は株式上場の目的を「社会的ステータスを得」ることだと述べた。

しかしながら、大パチンコホール経営者からは、同じ業界内ではあっても遠いであろう今回の2人の会話は、日本でも韓国でもシンガポールでも上場できず、香港で上場することで業界の「社会的なステータス」が上がるということはまずあり得ないということを示唆していないだろうか。
「社会的なステータス」とは、往々にして一般社会の「空気」そのものである。

さらに言えば、今年は東日本大震災ではないが、パチンコ店グループの巨額脱税
が明るみに出た年でもあった。

もしもこの1件が今後のパチンコホールによる海外上場をリードするものとなったならば、私はここでもう一度、ダイナム佐藤社長が語った「上場目的」について、先ほどの大崎一万発の言葉を引用せずにはいられない。

「周りの一般社会からどう見られるかということを、パチンコ産業って常に考えていかなきゃいけない職種、商業っていう・・・。」