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Wall Surrounded Journal

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金利が語る”小沢リスク”

先週最大のサプライズニュースといえばやはり民主党・小沢氏の代表選出馬表明ではないだろうか。
もしも2択となれば党員・サポーター票で有利な菅総理と党内に強固な基盤を持つと見られる小沢氏の対決ということになり、その情勢は予測の難しいものになろう。
そんな彼の出馬表明を受けて*1先週金曜日、マーケットは大きく反応した。
以下はJGB(日本国債)のイールドカーブ(利回り曲線)である。

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お分かりの方には少し説明がくどくなってしまうがご理解願いたい。
見ていただきたいのは上の線グラフの方だ。緑色の曲線が27日終了時点のイールドカーブ、オレンジがその前のものである。

イールドカーブ(利回り曲線)とは横軸に債券の期間、縦軸にその期間に対応する債券の利回りをとって各点を線で結んだもの。
試しに10y(10年)もののところを見ると27日時点(緑色)の利回りは1.0%付近であったことが分かるだろう。

そして先週末はオレンジ色から緑色に向かってカーブが急になっていることが分かる。
より急峻になることをイールドカーブスティープニング(steepening)というが、それまではフラット(flat;平ら)化が進んでいた。

それは生命保険会社や融資も伸びない銀行等が淡々と強気に国債を買い進めていたからで、そのさまをブル(強気の)・フラットと呼ぶ。
銀行等にはもちろん信金や信組なども入る。貸す先がなくなっても預かっている預金には利息も預金保険料も支払わないといけない。
よって現金で持つわけになどいかないわけだ。基本的には国債を買い進めるしかない。 今のところ満期まで持つんだ、と言い張れば国債の値段が途中どうなろうが破綻しない限り満期まで待てばいいのだから。(あくまでも、”今のところ”。)

一気に分かりにくくなってしまった方のためにちょっとだけ説明をしておく。 先程のグラフのように国債の利回りが上がるということは、国債の価格が下がることによって引き起こされる。
国債の場合には(実際には電子化されているので書かれていないが)、額面にある金額が満期のときに、金利(クーポン)が利払い日に支払われる。
つまり、その国債を安く買った人は高く買ってしまった人よりも得られる収益が(すなわち利回りも)大きくなる。価格が下がると利回りは上がるのだ。ちょうど矢印としては逆の関係になる。
また当然、逆に価格が上がるということは得られる収益が落ちる(利回りが低下)することになる。


先週末のイールドカーブスティープニングを見るとマーケット参加者は小沢氏の代表選出馬については”債券相場にネガティブな影響を与える”と予測したようだ。
20年債を見れば一気に14bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%;つまり、0.14%)も上がっている(債券価格は下落)。

ただ、その下地というのは先週、着実に形成されていた可能性もあるとのこと。
その20年債といえば先週にも新発の入札があった。クーポンは低めに設定されたものの、無難に乗り越えているという記事が大半だったが、応札倍率(平たく言うと、入札の参加者数)は低下しており、生命保険会社の需要が落ちてきていた可能性もある。


さて、この20年債、先週末こそ跳ね上がったものの、直近は先程のブルフラット化により2003年ぶりの低金利という状況であった。 実はこの”20年債”と”2003年”はちょっとしたキーワードとなる可能性もあるので、今回はそれをお伝えして終わりにしようと思う。


脳裏をよぎるVaRショック


2002年4月あたりから銀行は長期債の購入に転換していた。これはちょうどペイオフ解禁のころにあたる。
それまで、その前年には日銀が量的緩和政策に踏み切り、ムーディーズが日本国債を2段階格下げにしている。欧州の中央銀行や年金運用は債券現物の大量売却に踏み切っていた。

その後も国内勢は買い進め、2002年9月13日には2010年は既に割っているラインだが、10年国債が1.0%ちょうどになるまで低下をしていった。
ところが、同18日には先程の量的緩和の一環で銀行が持っている株式までも日銀が購入すると発表され、日銀の保有資産の悪化などを懸念し、同20日には10年債の初の札割れ(債券の発行予定金額分の買いが集まらないこと)が起こった。

このときに10年債利回りは再び1.3%台まで上がることとなったが、その後もデフレ長期化予測に変化はなく、再び国債は淡々と買い進められていった。
この「淡々とした買い進め」はメガバンクの一部や地方銀行による”VaR(Value at Risk;バリュー・アット・リスク)”という運用・管理手法の基に行われていた。

普通、リスクというと悪い意味で捉えられるが、本来は単にばらつき(標準偏差)のことであり、良い方へも悪い方へもどの程度ブレるのかを示すものである。
VaRではリスクのうち、損失の方に着目する。想定した以上に相場が下落するなどした際には予測していた以上に損を被らないように、当該資産を処理してしまうわけだ。

これを多くの銀行などの運用主体が横並びで行っていた。
そして、それが2003年に起こした弊害のことを”VaRショック”という。
簡単にそれを説明すると、「債券価格が大きく下がるとみんなが(それぞれのVaR基準により)売るように決めていたわけだから、実際に大きく崩れてきたときはみんなが売ることになった」ということである。

銀行・生保等により淡々と買い進められた国債は2003年6月までには10年債で0.430%、20年債で0.745%、30年債で0.960%まで低下していった。(当然、それだけ債券価格は上がっているということ。)
しかしそこから日経平均も9,000円を回復したり、好調な経済指標が出だすと、債券の人気は次第に低下していく。
(この年代の経過の記述は『日本国債先物入門 (現代の錬金術師シリーズ 88)/久保田博幸@ushikuma』に拠る。)

そして、先程簡単に説明したことへの引き金が引かれることになる。

2003年のVaRショックと呼ばれた金利上昇局面の背景には、最低で0.745%まで20年超長期国債が買い進まれた状況(10年国債が0.5%を割るような低金利局面でメガバンクが超長期国債を購入していた)で、生命保険会社や損保会社といった超長期セクターの投資家が、こぞって超長期国債の購入を手控え、わずか3ヶ月で20年超長期国債の利回りは2%にまで、急上昇したのであった

Financial Kaleidoscope -生命保険会社の国債消化を考える?


最近の日本勢はJGB(日本国債)だけでなくUST(米国債)のイールドカーブも強気に(というか強気にならざるを得ず)潰しに行っているということだが、今回の金利面での”小沢ショック”はこうして過去に照らしてみると思い起こさせる別のショックがある。

個人的には、VaRショックのトリガーが生保などによる20年債等の超長期債の手控えであったことから、そのあたりを少し気にしている。

先週の繰り返しになるが、すでに人口減少時代に突入している我が国である。誰が首相になることがあっても、効率的な財政を心がけて欲しいものである。

*1:より正確には鳩山さんの26日午前の発言を受けて http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/today.html