相続よりも生前贈与を促す政府税調の1つのねらい
先日、環境税(地球温暖化対策税)*1と題して、民主党自身がかつて目の敵にしていたはずの「暫定税率」を拡大する(と、言って差し支えないと思う)という、負けを認めたに等しいような政府税調だが、この度検討を始めている相続税増税および、それに伴う税制改正が少し興味深いことになってきた。
以下に概要をまとめるが、あくまでもすべて”案”にすぎないことを把握して読み進めて欲しい。
1)相続税は増税方針
生前贈与も促進へ、政府税調が4案提示 − YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20101204-OYT1T00722.htm
現在、相続税の最高税率は50%となっている。
政府税調は相続税の見直し案として、1.法定相続額2000万円超の税率を引き上げ、最高税率は55%
2.法定相続額2億円超の税率を引き上げ、最高税率は55%
3.法定相続額2000万円超の税率を引き上げ、最高税率は60%
4.法定相続額2億円超の税率を引き上げ、最高税率は60%――の4案を示した。 *2
2)生前贈与は促す方針*3
1.生前贈与の非課税枠を孫にも適用可に*4
2.生前贈与の際の一部税率引き下げ
子や孫への贈与について300万円超から3千万円以下の部分に適用する税率を、現行に比べ5〜15%下げる
3)成年扶養控除の縮小
23〜69歳の扶養家族がいる世帯の税負担を軽減する成年扶養控除を縮小
以上に加え、昨日上がってきた報道がこれだ。
子ども手当、財源に相続税検討 配偶者控除は維持へ - 47NEWS
http://www.47news.jp/CN/201012/CN2010120601000932.html
政府税制調査会は6日、2011年度税制改正で、子ども手当の上積み財源の一部を、相続税の増税により確保する検討に入った。財源確保の有力案だった配偶者控除への所得制限導入は見送り、現行制度を維持する方向。来春の統一地方選を控え、主婦層の反発を懸念する声が強まっているため、方針を転換した。
相続税は課税対象の遺産額から差し引く基礎控除を縮小するほか、税率の引き上げも視野に入れる。これに加え、23〜69歳の扶養家族がいる世帯の税負担を軽減する成年扶養控除を縮小し、子ども手当の上積み財源に充てることで調整する。
さて、冒頭で「興味深い」と述べた責任をとって*5これまでの議論をまとめると、
「相続税を上げる」と同時に「生前贈与を促す」
→子孫のいる相続主体→生前贈与を促す
→子孫のない相続主体→生存中の消費を促す
「相続税増税分を子ども手当ての財源に」充て、「23〜69歳の扶養家族がいる世帯の成年扶養控除を縮小」
→子ども手当てが15歳以下の子の保護者を対象とするため、より消費性向が高いと見られる主体への再分配を期待できるかも*6
→一般の大卒以上の年齢を扶養するインセンティブ*7を、15歳以下の子どもを持つインセンティブに変える
というねらいも、想定はされている。*8
あくまでもこれらは案であるので、税調のぐらつきっぷりを見ていてもとても安心できる部分などない。
よって、「興味深い」というスタンスで一応この流れを引き続き見ていこうとは思う。
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*1:http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819481E2E4E2E1E28DE2E4E3E0E0E2E3E29797E3E2E2E2;at=DGXZZO0195164008122009000000
*2:この他に、11/11の税調会後の五十嵐財務副大臣の会見で基礎控除における「法定相続人×n万円」という比例部分について、nは現在5000万円の固定額の減額率と同程度落とされるという税調の意向が述べられている。 http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/pdf/22zen9kaiken.pdf
*3:http://www.47news.jp/CN/201012/CN2010120301000972.html
*4:ただし、対象となる「孫」の年齢要件に触れた報道は私自身見ていないので、詳しい方は教えて下さい
*5:んな大げさな
*6:確かに子ども手当の乗数効果はあまり高くないだろうが、あの増税分を支払うような相続財産が消費に回る効果よりは高いように思われる
*7:年金受取が現在では基本的に65歳以上であることから、こちらもそうするのがより整合的かな、とは筆者自身は思う。
*8:特に、相続税に関しては、課税ベースを広げたいという意向と、地価が上がってきた時代に膨らませた基礎控除をそのままにしていて良いのかという議論がある。詳しくは文末”補足”の画像を参照